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映画

言葉に依らないリアリティ – 『The Storekeeper』

後にアカデミー賞作品を生み出すことになるギャヴィン・フッド監督の最初の映画は、すばらしく美しい作品だった。監督が、自分の生まれ育った南アフ リカの地をどれほど愛しているかは、このわずか22分のショートストーリーを見れば、俺には聞くまでもないことだと断言できる。

おそらく、何十年南アフリカに住んでいようとも、小さなコミュニティに縛られている人にはわからないだろう、わずかな人々の機微とでも言うものを見事なまでに敏感に表現している。俳優たちの演技も申し分ない。

この映画には、登場人物のセリフも、ナレーションもない、大げさなBGMもない。あるのは、眼の動き、手や身体の動きで表現すること、それと、背景 に流れるさりげない日常の音、虫の音、ラジオの音、教会に響く合唱。そうして、連なる映像は、見事というしかないリアリティを私たちに投げかける。

郵便配達のおじいさんが自転車に乗ってやってくる。丘の上にたたずむ一軒の雑貨屋。店を営むひとりの男が一通の手紙を開封する。そこには「ウェディ ング」の文字が。届けてくれた配達員のおじいさんに、男はにっこり笑って見せる。幸福な雰囲気を辺りが包む。その夜、男の雑貨屋としてのいつものルー ティーンワークも、どことなく、普段よりも楽しげに見える。

そんな男の日常に、翌朝一筋の暗い影が差し込んだ。寝室で寝ている間に、窓をこじ開けられ、商品を盗まれてしまったのだ。息子の結婚式まであと二日。結婚式の準備と同時に、より入念な防犯対策を余儀なくされた男の物語は、ここから思わぬ方向にまわってゆく。

結末はひどく悲しい。教会の合唱が響きつづける。郵便配達のおじいさんはただ軽く目線を下げ、そして去っていく。

安易な言葉に頼らないがこそ、じゅうぶんにリアリティを表現しうることはある。ギャヴィン・フッド監督の一連の作品が、なかでもこの静かな小品が、そのことを何よりも立証している。

The Store Keeper


The Storekeeper
1998年 南アフリカ 22分
監督 : ギャヴィン・フッド
日本未公開

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